国内依存からの脱却:医療機器メーカーに求められる変革とは

国内依存からの脱却:医療機器メーカーに求められる変革とは

2026年10月1日

グローバル競争時代において、医療機器メーカーはモノ(製品)からコト(ワークフロー)へと変われるか

世界の医療機器市場は、高齢化、慢性疾患の増加、医療技術の進歩を背景に、今後も成長が期待される。一方、日系医療機器メーカーがその果実を十分に取り込めているとは言い難い。

国内市場への依存、中国メーカーの台頭、技術革新に伴う競争単位の変化。複数の構造変化が同時に進む中、日系メーカーに求められているのは、既存製品を海外へ展開するだけではなく、カテゴリーと地域に応じて異なる勝ち筋を選択し、それを実行できる経営モデルへ転換することである。

Key insights

国内市場の成長だけでは、日系医療機器メーカーの持続的成長は実現できない。グローバルでのビジネスチャンスをつかむことが企業の成長、ひいては企業価値の向上につながる。

グローバル競争においては、中国メーカーが価格だけでなく技術面でも存在感を増している。従来の製品品質を競うモノ売りでは差別化要素が失われていく。

競争優位の源泉は今後製品単体からワークフロー、患者接点へと進化する。求められるのはグローバル化だが、その本質は、地域特性に合わせて事業を組み替えるマルチローカライズである。

成長市場の果実の取り込みに苦戦する日系メーカー

国内医療機器市場は過去5年間、年平均約5%で拡大し、5兆円規模に迫る。一見すれば堅調な成長市場だが、その内訳を見ると様相は異なる。

国内生産の伸びが相対的に低い一方、輸入品が市場拡大をより多く取り込んでいる。整形器具や生体内移植器具等、一部の治療領域では、輸入額が国内市場の約8~9割に相当する。国内市場において、相対的に日系メーカーのプレゼンスが低下しつつある。

今後、地域医療構想や病院再編、医師不足が進めば、国内では医療機関の生産性改善に対する要求も強まる。日系メーカーは、国内事業を再構築しながら、海外市場で成長を実現するという二つの課題に同時に向き合わなければならない。

中国勢は低価格競争者からグローバル競争者へ

グローバル競争環境について最も注視すべき変化の一つが、中国医療機器メーカーの高度化である。

中国メーカーは、巨大な国内需要による量産経験に加え、産業政策、研究開発支援、政府調達等を活用し、製品性能、規制対応、研究開発、海外展開の各面で競争力を高めている。

同時に、中国メーカーは保護されてきただけではない。Volume-Based Procurement(VBP)と呼ばれる集中調達制度では、冠動脈ステントの平均価格が約93%、人工関節も約80%以上下落した。中国メーカー自身も厳しい価格競争と市場選別にさらされ、生産効率や製品ポートフォリオの高度化を迫られている。結果、製品により高い付加価値を求める中国メーカーは研究開発に積極的に資金を投じ、グローバルでも十分に通用する製品を市場に投入して きている。

中国メーカーの脅威は価格の安さだけではない。巨大市場、量産能力、研究開発、規制対応、海外展開を組み合わせた総合競争力にある。

競争単位は製品から、ワークフローと患者ジャーニーへ

標準化された単体製品では、規模とコスト構造を備えた中国メーカーとの競争は一段と厳しくなる。日系メーカーが持続的な差別化を築くには、製品性能だけでなく、臨床エビデンス、医師教育、ワークフロー、データ、保守・サービスまで競争領域を広げる必要がある。

ただし、すべての医療領域で同じようにエコシステム化が進むわけではない。

継続的な患者モニタリングが必要か。データが反復的に発生するか。複数職種・部門のワークフローをまたぐか。介入以外の接点が医療アウトカムを左右するか。この条件を多く満たす疾患(例:糖尿病、慢性循環器、呼吸器等)では、デバイス、データ、患者支援、医療者介入をつなぐエコシステム化が進みやすい。

これから問われるのは、製品が優れているかだけではない。医療現場の生産性や患者アウトカムを、どの程度改善できるかである。

カテゴリー×地域で選ぶ3つの成長モデル

グローバル市場の勝ち筋は一つではない。本スタディでは、医療機器メーカーの成長モデルを三つに整理した。

第一は、革新的技術、臨床エビデンス、KOLネットワークを握る技術リーダー型。第二は、医療現場のプロセスとデータを握るワークフロー統合型。第三は、継続的な患者接点と長期データを握る患者ジャーニー型である。

どのモデルが有効かは、疾患・カテゴリーだけでなく地域によっても異なる。日本では技術リーダー型が引き続き中心だが、病院再編や医師不足に伴い、ワークフロー統合型の重要性が高まる。米国ではワークフロー統合型と患者ジャーニー型、欧州では国ごとの医療制度と財政環境に応じたモデル設計、中国ではコスト・スケールと技術差別化の両立が求められる。

重要なのは、単一モデルを全世界へ横展開することではない。カテゴリーと地域を選び、必要な能力へ資本を配分し、外部パートナーを取り込みながら実装することだ。

戦略が同質化する時代、勝敗を分けるのは実行力である。

グローバルで戦う医療機器メーカーには、製品競争力だけでなく、疾患特性と地域の医療制度に応じて、技術、ワークフロー、患者ジャーニーのいずれを競争の支配点とするかを明確にすることが求められる。

AIの普及により企業間の情報格差は縮小し、戦略は同質化していく。その中で違いをもたらすのは、早期に成長領域を選び、必要な能力に資本を配分し、現場へ実装し続ける実行力である。今こそ全社に変革を促し、新たな成長モデルへと舵を切るときである。

本稿では、この変化の全体像を紹介した。詳細版では、国内市場の構造分析、中国メーカーの競争力形成、疾患領域別のエコシステム化ポテンシャル、地域別の成長モデル、変革に必要なケイパビリティについて、定量分析と企業事例を交えて考察している。

スタディ全文

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