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変曲点を迎える半導体市場 第3章

変曲点を迎える半導体市場 第3章

2023年6月27日

By 時 隽

各国の半導体産業振興政策に見る“ねらい”

半導体業界における各国の政策動向

これまで2回にわたり、半導体業界の構造変化を概観のうえ、主要各国が有する強みを過去経緯踏まえ整理してきた。その中でも既に一部言及しているが、同業界が持つ影響力は非常に大きくなっているがゆえに、各国政府は経済的な観点だけでなく、安全保障の観点からも自国内の半導体産業及びサプライチェーン(SC)の強靭化に注力し始めている。

そこで本稿では各国・地域における政策・投資動向から半導体業界に係る各国の考え方及び“ねらい”を見定め、それらが与える影響を考察する。

米国

自国内SCの強靭化に注力。製造工程の強化を図る

米国は従前半導体市場で優位なポジショニングを有していたが、2010年代以降の中国台頭や自国内の生産能力の低さに焦りを感じ始めた。それに加え、コロナ禍による半導体産業の落ち込みが影響し、自国内サプライチェーンの構築・強靭化を図る動きを見せる。

’70年代以降の集積回路発明による半導体小型化を背景に民生品での利用が拡大し、米国における半導体市場は一気に拡大を遂げ、業界をリードするポジショニングを確立した。

その後、半導体開発・製造コストの抑制を狙い、自国外への製造拠点移転やアジア企業への製造委託を行う動きが増加し、水平分業モデルへのシフトが進むとともに米国では特にファブレス業態が発展してきた。同時に米国内における半導体製造能力の減少も進むこととなった。

また、’10年代に入り、中国が自国の半導体産業を支援する動きを見せたことに警戒感を抱き、’16年頃には米中貿易摩擦が顕在化、関税の引き上げ合戦にまでヒートアップする様相を見せた。加えて、COVID-19の世界的な流行の影響は半導体供給網に大きな影響を与え、他国に依存する半導体SCの脆弱性と、それに対する危機感を強く認識することとなった。

当該問題意識から、半導体SCの強靭化、特に製造能力の強化を企図するCHIPS法・CHIPSプラス法(’21、’22年)を成立させた。CHIPSプラス法では今後5年間で半導体分野に対する計527億ドルの支援を計画しており、半導体製造施設への助成に390億ドルを投じて他国ファウンドリ誘致による自国内SC強化を図るとしている。また、商務省管轄の研究機関にも110億ドルを投じ、先端半導体の開発による競争力も強化する狙いがある。税額控除措置の対象には外資企業も含んでおり、海外企業誘致にも積極的であることが伺える。

一方、支援条件として、補助金支給から10年間は、中国を含む懸念国における先端半導体の製造施設の拡張等を行わないことを求めており、中国の締め出しも同時に企図している。

中国

“締め出し”を背景にレガシー・Next Generation領域強化の構え

中国は’60年代以降、重工業強化に重点を置いたため半導体産業の育成は遅れていたが、半導体の輸入依存による貿易赤字が嵩んだことから、’90年代に入り、国営企業への2億ドル(当時のレートで換算。以下同様)の投資をはじめ、政府による本格的な支援を開始した。

また、半導体産業の水平分業化を踏まえ中国はファウンドリ企業への投資を拡大し、市場シェアの獲得が進んだ。’10年代からは政府主導のファンド組成を通じてファウンドリ・ファブレスへの支援拡充が見られた。

しかし、依然として半導体の自給体制確立には苦戦しており、’15年に掲げた「IC自給率を’20年に40%、’30年に70%」とする目標は、’20年時点で約15%(うち中国企業による製造は約6%)と大幅に未達の水準にある。輸入依存が大きい中、’20年時点で貿易赤字は約2,300億ドルにまで膨らみ、米中貿易摩擦やCOVID-19によるSC混乱などの影響もある中で中国もまたSCの自国内完結、ひいては自給率引上げを喫緊の取組み課題としている。

そこで’21年に発表した第14次5か年計画では、半導体産業を「重要な7つの先端研究分野の1つ」に掲げ、政府による経済的支援を強化する方針を示すとともに保有技術の高さに応じた税制優遇を打ち出しており、最高で10年間の法人税免除や関税免除などを謳っている。

一方、米国CHIPS法の影響で先端半導体の開発・製造に必要な装置等を確保できないという制約がある中でも半導体産業強化に向けた2つの動きを見せる。一つは、レガシー領域への注力である。規制対象に含まれないレガシー半導体製造に必要な装置類を中古製品含めて確保する動きから、その狙いは窺い知れるだろう。

もう一つは、次世代半導体材料開発の推進である。第14次5か年計画において、集積回路の重要な取組みの方向性を4つ掲げており、その中にはIC設計ツールの研究開発や先進技術開発を含むが、それと並ぶ形で炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などの次世代半導体材料の開発推進も注力するとしている。このような制約がある中でも、その影響を受けない領域での発展を目指す構えである。

韓国

製品ポートフォリオの多様化をはじめ自国内産業強化を企図

韓国は政府による半導体業界への支援に従来より積極的であり、’69年に開始した8か年計画では約5億ドル、’81年からの5か年計画では約3.5億ドルの公的融資を投入した。その際、国内市場が未成熟であったことから政府としては輸出をメインに据え、企業も海外展開を重視していた点が特徴の一つである。

’80年代後半から実施している国家的プロジェクトの半導体共同研究において、DRAMを中心にメモリ半導体の製品技術と工程技術の開発に重点を置いたことが、現在のメモリ半導体における競争力の高さを生み出した。

一方、韓国はメモリ以外の半導体でのプレゼンスの低さに加え、半導体製造装置や主要材料の輸入依存を課題として抱えてきた。’19年に日韓関係が悪化した際に日本が半導体材料3種類の輸出に関して包括許可から個別許可に切り替えたことが、韓国政府が半導体SCの国産化の必要性を強く意識するきっかけとなった。

また、COVID-19の影響もあり、’22年に「半導体超強大国達成戦略」を打ち出し、半導体産業の拡大や材料・製造装置の国産比率の引き上げを掲げた。半導体産業団地の拡大に向けては’26年迄に約2,650億ドルを投資するほか、設備投資に対する税額控除も支援策の一つに掲げる。

加えて、非メモリ半導体の強化を企図し、AI向け半導体に約10億ドル、車載半導体に約9億ドル、パワー半導体に約3.5億ドルを投じて開発を支援する。更に、’31年迄に半導体の専門人材15万人以上を養成する計画も掲げており、さらなる半導体産業の強化の狙いが見て取れる。

台湾

SC上流進出と次世代技術の獲得による優位性確立を狙う

台湾の半導体産業は、’60年代に人件費が安価であることに着目した外資系企業による工場設立が相次いだことをきっかけに誕生した。’70年代に入り、オイルショックの影響で米国系企業が撤退したのを背景に台湾当局が半導体産業の育成に取り組み始め、国営研究開発機関であるITRIの設立や半導体産業の集積拠点として新竹サイエンスパークの設置など、次々と振興策が展開された。

’80年代後半からは徐々にTSMCやUMCといった民間企業が牽引役を担い始め、当局は補助金等の資金支援にフォーカスする姿勢にシフトした。その顕著な例としては、ディープサブミクロンプロセス技術開発 5 カ年計画(’95-’00年)において、当初当局が公営研究機関に約8億ドルを投じる計画をしていたが、研究で先行する民間企業からの反対意見を受け、約0.7億ドルに縮小したことが挙げられる。このように、台湾の半導体産業は民間企業の目覚ましい成長に下支えされてきた。

現在、製造にフォーカスしたファウンドリ及びOSATが非常に大きなプレゼンスを有する一方で、製造装置や材料領域では他国に大きく依存する点が今後の台湾半導体業界の発展におけるボトルネックとなり得る。

斯様な課題意識を背景に、台湾当局は’21年-’25年の中期計画である「オングストローム(Å)世代半導体計画」を’20年に打ち出した。本計画では製造装置と材料領域及び次世代半導体の強化を目指している。

製造設備や材料の国産化支援やオングストローム(1nm)レベルの微細化に関する研究開発支援等のプログラムに対し、合計約2億ドルを5年間で投じる予定である。また、半導体を含む重点産業を対象に0.5億ドルを投じて産学で連携し、高度人材を育成するためのプラットフォームを設立するとしており人材育成にも余念がない。

このように台湾は、足許の強みである製造領域だけではなく、SC上流も強化しつつ次世代技術の開発にも力を入れることで半導体産業におけるポジショニングを盤石化する動きが明確に伺える。

日本

国内SC強化のための海外企業誘致と最先端開発に注力

日本は官民合同で約9億ドルを投じた「超LSIプロジェクト」を’76~’80年に展開し、DRAMや半導体製造装置における技術水準を急伸させた。当時最大の半導体生産国だったアメリカよりも安いコストで商品を製造できたことから’80年代には最盛期を迎え、世界売上シェアが一時50%を占め半導体市場を席捲した。

しかし、米国等から「官民の癒着」との批判を受け、15年にわたって官民連携のプロジェクトが見送られた。また、日米貿易摩擦が顕在化したことで’86年の日米半導体協定の影響や’90年代に業界で見られた水平分業化への対応に遅れを取ったことなどに起因し、徐々に日本の半導体産業は凋落した。

2000年以降、数々の官民合同プロジェクトが展開されたものの目覚ましい成果を挙げることは叶わず、現在は製造装置や材料領域で競争力を維持するものの、半導体売上シェアは’21年時点で10%を下回るまでに低迷している。

このような長期低迷やCOVID-19によるSC混乱による供給不安、各国のローカライゼーションの動きを受け、日本政府も半導体産業の競争力強化を企図した大型投資支援策を’21年から開始した。国内製造基盤の確保・強化を通じた供給安定化を進めつつ先端半導体の段階的な製造技術強化により、「半導体大国 日本」の復権を図るとしている。

実際、’21年にはTSMCの熊本工場等の設備投資支援や、ノード幅2nmの最先端半導体の量産を目指すラピダスへの出資など、約70億ドルの支援を実施した。また、国内のロジック・メモリ設備投資や最先端半導体の製造・開発支援、パワー半導体等の国内生産強化にも投資するとしており、従来よりも一層踏み込んだ支援姿勢と言える。

変曲点を迎える半導体市場における日本復権に向けた3つの方向性

変曲点を迎える半導体市場において日本はやや劣勢にあると見ることができるが、半導体産業の復活に向けては日本政府が発表している各種取組みが結実することに期待したい。それと同時に総花的になることで、思うような成果創出に繋がらないリスクに関しては警鐘を鳴らしておきたい。

混迷を極める業界構造・環境において検討すべき事項が多岐にわたることは理解するが、やはり明確な指針の打ち出しと優先順位付けによる“選択と集中”が重要であろう。なお、注力領域の見極めに際しては、「足許日本が有する優位性」と「各領域の将来性・有望性」の2つが肝となる。斯様な思いから、日本の半導体産業復活に向けた3つの方向性を最後に述べる。

①足許強みを有する材料・製造装置領域の更なる強化

日本が今後の半導体市場において優位なポジショニングを確保・維持し続けるために、まずは半導体製造の根幹、かつ足許で日本が強みを有する材料・製造装置領域の盤石化がカギを握る。

第二章で言及したとおり、材料・装置領域においては日本プレイヤーの丁寧な「擦合せ」が優位性の源泉であり、その結果として材料・装置領域は夫々、約50%と約30%と非常に高いシェアを有している(’21年度実績)。特に、材料領域ではウェハやパッケージ基盤等重要材料の供給を担っており、日本は世界の半導体製造において不可欠な存在と言える。従い、今後ともゲームチェンジを起こしうる新素材や技術の開発に注力し、リードするポジションを確立し続けることが求められるだろう。

一方、製造装置領域は一定のシェアは確保しているものの、“露光”を筆頭に市場規模の大きな市場はアメリカ・オランダのプレイヤーの後塵を拝している。前章でも言及した通り、日系プレイヤーが「他国プレイヤーとの連携」に消極的だった間にASMLなど海外プレイヤーに大きくシェアを奪われることとなった。また、昨今、自国優先主義が顕著に見られる中国・韓国の有力半導体メーカーが自国の材料・装置プレイヤーを囲い込む形で密に連携する昨今の動きに対しては、一層の危機感を持つ必要がある。

SCの自国内完結、ローカライゼーションが進む状況下において有力プレイヤーの国外流出あるいはシェア減衰リスクも想定されるため、日系企業各社は有力プレイヤーとの共同開発等を積極的に行うことでデファクトスタンダードとしてのポジショニングを獲得・維持し続け、材料同様に優位性を盤石化することが重要であろう。一部報道によると、先端技術に係る共同研究が日本で行われるとされているが、官民双方で海外有力プレイヤーも巻き込む形でより推し進めることが期待される。

②レガシー半導体の製造技術・生産能力の確保

他方、レガシー領域は第一章でも言及のとおり依然として大きな需要があるものの、需要に対する供給力が不足している。加えて、各国政府が焦点をあてる関心事でないがゆえに投資インセンティブは低い。また、各国政策でもレガシー領域については特段言及されておらず、ほぼ全ての国が有効な取組みの方向性を打ち出せていない。

このような状況において、特にパワー半導体に関しては足許で日本・欧州・米国がシェアを分け合う状態にあり、日本は依然多くの有力プレイヤーを有するため、本領域の更なる強化を企図して彼らを一層後押しすることの価値は大いにあるだろう。

日本はパワー半導体市場で25%近いシェアを占めるものの、個社単位で見てみると、日系企業各社が有するシェアはいずれも10%に満たず、シェアを奪い合う様相を呈する。今後日本が優位性構築を志向するためには限られたパイを食い合う形だけは避ける必要があり、国内企業各社が、政府が打ち出す明確な方針のもとで一体感を持った連携体制を取ることが欧米各社に対抗を図るための有望な方策と考える。

幸いにもパワー半導体を含むレガシー半導体を必要とする自動車産業や産機産業は日本の主要産業の一つであり、注力する意義も大きいと考える。

③先端半導体の製造技術・生産能力の確保

そして、市場の成長性・将来性を踏まえると、先端領域における競争環境の中で日本も当然負けるわけにはいかないが、大前提として今時点で開発能力、製造能力ともに劣っていることを踏まえ戦略的な取組みを要する。既に先端ロジック半導体の技術開発・量産を企図する動きはあり機運が高まっていると言えるが、デファクトスタンダード製品の創出に加え、十分な製造能力獲得までを見据えることが重要である。

その際、政府としては日本企業への資金援助を中心に据えるのか、海外企業等も対象とする支援策の打ち出しにより誘致を前提に進めるのか、はたまたそれらを両輪で推進するのかという道筋をしっかりと発信することが重要である。

なお、上記2つの方向性とやや異なり、米国・中国のような官民双方が力強く産業強化を推進する動きを見せる国がいる中で日本が独力で対抗するのは、資金力・技術力・人員数など複数要素から見ても極めて難しいと言えるだろう。

その難しさを乗り越えるための一つの方策として、「リージョナルローカライゼーション」を提唱したい。自国内完結を目指す動きがあることは既に言及した通りだが、殊、先端領域においては技術開発や製造キャパシティ、資金確保の観点から台湾・韓国と密に連携するローカライゼーション、すなわち特定地域に閉じた連携網の形成が有用であると考える。日本政府としてアメリカやイギリスと協力する動きも見られる中ではあるが、グローバルSCの脆弱性が露顕した今、できる限り物理的距離の近い諸国に閉じた協力関係を築くことの重要性は一層高まる。

他方、先端領域からの“締め出し”を食らう中国と連携することも一案として考えられるのではないか。中国は欧米諸国からの製造装置輸入等で制約を受ける状況にあるため、中国は現時点では先端領域に必要な技術力は有さないものの、国家を挙げた投資力や豊富な労働力があることに鑑みると、製造キャパシティ確保のためであれば見逃すには惜しいパートナー候補ではある。彼らと協力体制を組むことは一定のリスクを孕むものの、材料・製造装置という半導体製造に欠かせない領域に優位性を有する日本にしか取れない、半導体市場における欧州・米国・アジアの3つ巴の均衡状態を生み出す戦略として検討の余地はあるだろう。

また、物理的な距離関係を重視するだけでなく柔軟な考え方をすると、「技術は保有しないものの、資金力を有しており、かつ国家として新たな収益源の獲得を急ぐ」中東諸国と連携することも一案であろう。先端領域で今後覇権争いを繰り広げるためには技術開発だけでなく製造キャパシティ確保が必要となり、莫大な投資は避けられない。そのための資金力でサポートが期待できるプレイヤーとの密な協力体制を模索することは、ごく自然かつ必要な発想と言える。

なお、どの方式を取るにせよ、パートナリングを実現するためにはパートナーへの価値提供が必要となる。その観点では、日本が現時点で他国に比して高い優位性を有する材料及び製造装置領域の更なる盤石化が“パートナリング実現のカギ”となるだろう。当該領域における強みをフックとしたパートナリング提案を魅力的なものにするためにも、①材料・製造領域の更なる強化は喫緊かつ日本半導体市場再興に不可欠と言える。

本稿では3つの方向性を提示したが、最終目的を明確に定義し、その実現に資するか否かを指標とすることで各種取組みに優先順位をつけることが何より重要と弊社は考える。

なお、今回は主に業界構造の変化とそれに対する各国・地域の取組みを中心に見てきたが、当然ながら市場において実際に競争を繰り広げる企業各社が主役であることを忘れてはならない。彼らにフォーカスをあてたテーマは別の機会に取り上げることとしたい。

共著:兼子佑樹

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