なぜオペレーション最適化は成長を止めるのか
By 田村 誠一
オペレーションに潜む“断絶”と、更新が回り続けるOSの設計
同じ業界であれば、企画・製造・物流・販売といった機能はおおむね共通している。それでも成長性や収益性に差が生じるのは、機能の強弱ではなく、機能をつないで価値へ変換するオペレーション(業務連鎖)の設計と運用に差があるからだ。ただし「業務を連鎖として捉える」こと自体は30年前からの正論である。本稿が扱うのはその次、成功した流れが固定化し、組織を硬直化させ成長を止める構造(断絶)と、それを越えて更新し続ける仕組み(OS)である。Digital/AIはその更新を日常運用として成立させる設計装置である。
30年前の正論と何が違うのか――BPRの次を問う
「機能を単品で捉えても意味がない。業務は連鎖として捉えよ」――これは業務プロセスやBPR(Business Process Re-engineering:業務プロセス再構築)が流行した30年前から繰り返されてきた正論である。だからこそ、いま改めてオペレーションが重要だと言えば、焼き直しに聞こえる危険がある。しかし本稿が扱うのは、その次である。
問題は、流れ(To-Be)を描けるかではない。描いた流れが成功によって固定化し、それ自体が次の成長を止める構造を見抜き、更新され続ける状態を設計できるかである。本稿が問うのは、To-Beが固定されず更新され続けるための仕組み、すなわちオペレーティングシステムである。
重要なのは、一過性のBPRプロジェクトではなく、例外・顧客反応・業務ログを設計入力として取り込み、判断と実行を通じて標準を更新し続けられるか。ここに競争力の差が生まれる。
なぜここまで踏み込む必要があるのか。理由は二つある。第一に、標準化・最適化が進むほど組織は既知需要の回転に閉じ、例外や兆しを逸脱として排除しやすくなる。
第二に、Digital/AI前提の競争環境では、相手は前提そのものを更新し続ける設計で組み立ててくる。こちらが改善で1割、2割詰めても、前提が違えば追いつけない。だから問うべきは、機能強化ではなく「前提を更新できるか」である。
機能ではなく流れで捉える――差はオペレーションに宿る
機能は何を担うかである。営業・生産・物流・開発・人事・財務など、比較的安定した領域名だ。他方、オペレーションはどう価値を実現するかである。顧客接点、供給、調達、開発、管理・スタッフ業務がつながり合い、人間とITに支えられながら一気通貫で成果を生む、機能横断の業務連鎖である。
同じ業界で成果が割れるのは、機能のリストが違うからではない。似た機能を持ちながら、流れのどこで判断し、どこで詰まり、どこで例外を拾い、どこで次に反映しているかが違うからだ。従って経営が問うべきは何の機能を強くするかではない。価値を生む流れが設計されているか、その流れは更新され続けるかである。
レベル差をどう定義するか――成果ではなく原因側の能力に揃える
オペレーションは従来、効率性(どれだけ無駄なく速く正確に回るか)と有効性(顧客要求に応えられるか)で語られてきた。効率性は収益性に、有効性は成長性と収益性の双方に効く。ただし、レベル差を設計対象として扱うには、この二軸だけでは因果が見えにくい。
そこで本稿では、レベル差を結果(効率・有効)ではなく、原因側の能力として次の3つに揃える。第一に再現性(規律):属人的ばらつきを抑え、安定して回す力(標準化・品質・速度・正確性)。第二に接続性(流れ):前後工程や関連部門をつなぎ、全体として成果が出るようにする力。部門横断の全体最適が成立している状態。第三に更新性(更新回路):例外・兆し・顧客反応・業務ログを拾い、試し、標準を更新する力。To-Beを固定しない力である。
効率性は再現性と接続性の結果であり、有効性は更新性の結果である。効率は過去を磨き、更新は未来を生む。両者はしばしばトレードオフになる。だから更新を意志ではなく回路として設計しない限り、最適化が進むほど更新が難しくなる。
標準化→最適化→再生産化
ここから示す整理は、どこで止まるかを見抜くための見取り図である。標準化と最適化は多くの企業が到達できる一方、その成功体験が更新を押し返す。
レベル0(野放図)では、再現性が立ち上がっていない。品質や対応が個人に依存し、既知要求にすら組織として応えきれない。
レベル1(標準化)では、再現性が立ち上がる。個人差が縮まり再現性が確保されるが、対応は既知要求に限られ、部門内に閉じやすい。
レベル2(最適化)では、接続性が成立し全体最適が進み、既知需要への対応力は強くなる。しかし更新性が弱いと、新しい芽は既存KPIに適合しにくく潰れやすい。
レベル3(再生産化)では、更新性が日常運用として回る。既存活動を活かし、新たな活動を低コストで試せる。既知の要求にとどまらず、新たな要求の先回りや顧客創造につながる。例外・兆しが標準更新に接続され、流れが次の流れを生む母体として機能する。
最適化は、成功するほど次の成長を止める
レベル0→1では標準化が課題になる。しかしレベル1→2では、その標準化と再現性そのものが次の壁にもなる。さらにレベル2→3では、既存活動の最適化そのものが壁になる。
最適化が進むほど、意思決定は速くなるどころか遅くなる。整合のための会議が増殖し、例外処理が上に上がり、現場はKPIを守るための仕事で埋まっていく。そして最も厄介なのは、誰も悪者ではないことだ。正しく最適化した結果として、更新だけが止まる。
例えば法人向け卸・通販会社では、受注、在庫引当、出荷、問い合わせ対応の手順が整備され、処理速度と正確性は向上した。これは標準化としての前進である。
ただし、この段階で高く評価されるのは、受注は速く受ける、物流は誤出荷なく出す、問い合わせは短時間で閉じる、といった各部門内の正しさである。すると、想定外の注文や特殊な要望は、自部門の処理を乱し、リードタイムや効率を悪化させるものとして排除されやすくなる。各部門は正しく動いていても、顧客にとっての全体の流れは見直されない。結果として、組織は既知需要には強くなるが、新しい需要を試し次につなげることが難しくなる。
既存オペレーションは競争力の源泉であると同時に、次の成長を妨げる要因にもなりうる。経営として問われるのは、単に既存活動を強くすることではなく、硬直化を乗り越え、成熟した活動を持ちつつも、その中から次の活動を立ち上げる力まで持てているかどうかである。
断絶を越える企業は更新回路を設計している
更新回路とは、例外・顧客反応を入力として拾い、試行を通じて標準へ反映する仕組みである。
この点を考える上で分かりやすいのが「トヨタ生産方式(TPS:Toyota Production System)」である。代表的な考え方には「ジャスト・イン・タイム」や、異常があれば機械やラインを止めて問題を見える化する「自働化」がある。TPSは、標準を遵守対象ではなく、異常を発見し次の改善につなげる基準としておく。標準があるから異常が見え、原因が分析され、前提が見直される。例外は処理で終わるのではなく、次の標準を生む入力になる。
Zaraはこの構造を市場接点で実装している。通常の最適化では、在庫回転、欠品率、納期などのKPIを守ることが善になるほど、標準外の試みは逸脱に見え、見送られたり矮小化されたりしやすい。結果として既知需要には強くなるが、新しい需要の芽を試し次へつなげることは難しくなる。これに対しZaraでは、店頭で見えた変化が次の設計入力として取り込まれる。販売数だけでなく、どの商品を手に取ったか、試着したが買わなかったものは何か、色・サイズ・素材にどのような反応があったかといった、店舗やオンラインで観測された顧客反応が商品設計や供給判断に戻され、短い生産ロットと近接サプライチェーンによって小さく試し、結果が次の判断に反映される。更新が日常運用として回っている点に強みがある。
TPSとZaraに共通するのは、例外が排除されるのではなく、標準更新の入力として回路に組み込まれている点である。レベル2とレベル3の差は、強さではなく回路の設計にある。
問題は自動化ではなく、更新が日常運用として回るかである
重要なのは作業速度ではなく、例外・顧客反応・実行結果を次の判断ルールや標準に戻す更新回路を、より速く・広く・低コストに回せるかである。
更新回路はDigital/AI以前から存在する。トヨタ自動車やZaraのような巨大企業以外の例としては、鶴雅リゾートを運営する鶴雅ホールディングスが挙げられる。同社は北海道を拠点に、主に5エリアで計16の温泉旅館・ホテル等を展開している。各施設は、周辺の自然、温泉、食、観光資源に応じて異なるコンセプトを持つ。従って、単一の標準サービスを全施設に横展開するだけではなく、地域・季節ごとの訴求価値や顧客の反応を踏まえて、サービスや運営方法を更新し続ける必要がある。
同社は、顧客アンケート、売上実績、口コミ、現場従業員の気づきなどを共有し、サービスや運営方法の見直しにつなげてきた。北海道内の全施設をテレビでつなぐ月1回の全体会議では、アンケートや売上などの情報を共有し、見える化を図りながらサービスを見直している。また、時期や客層に応じて、宿泊プラン、販売方法、サービスの仕方を変えている。重要なのは、情報収集ではなく、それを標準に戻す場と習慣を持っている点にある。これはDigital/AIを用いた高速な更新ではないが、更新回路そのものである。
では、Digital/AIの役割は何か。それは更新回路の運用コストを下げ、その回転数を上げる点にある。従来のBPR×ITも自動化には挑戦してきた。しかし、従来のITはTo-Beを固定仕様として埋め込み、更新をプロジェクト化した。その結果、更新頻度は低下した。AI(とくにAIエージェント)がもたらす違いは、自動化それ自体ではない。To-Beを固定仕様ではなく更新前提の仮説として扱い、例外・兆し・顧客反応・業務ログを常時収集し、仮説生成、試行、標準更新といった更新プロセスの運用コストを下げる点にある。
更新回路を動かすためには「観測できること(オブザーバビリティ)」と「試せること(実験運用)」が必要になる。業務ログが収集され、例外が分類され、試行と検証を経て標準に反映される。Digital/AIの役割は、この観測と実験と反映を、日常運用として回る形にすることだ。更新回路(OS)は、兆しを拾い、決め、試し、標準を更新する。この一連が日常運用として回ることが本質である。
真の戦場は直接業務にある
多くの企業はDigital/AIを間接業務の効率化に適用する。導入障壁が低く、効果が測りやすいからだ。しかし、競争力を決めるのは、顧客接点、供給、生産、設計といった価値創出の中核が、どのようにつながり更新されるかである。
重要なのは、供給と生産を別々に最適化することではない。顧客の変化を需要として構造化し、供給条件に反映し、生産条件に落とし、その実行結果を次の判断へ戻す。この一連が更新回路として成立しているかが問われる。
スシローの店舗オペレーションは分かりやすい。回転寿司では、顧客に多様な商品を待たせず提供しようとすれば、レーンや仕込みに一定量を先出しする必要がある。しかし需要を読み違えれば、鮮度低下や廃棄、あるいは注文待ちや機会損失が生まれる。鮮度、品揃え、廃棄、原価を同時に成立させるには、顧客の反応を店舗運営や食材準備の判断に戻し続ける必要がある。スシローは、販売実績、食材使用量、店舗オペレーションのデータをもとに需要を読み、発注数量、仕込み量、炊飯量などの判断に反映している。重要なのは、人を置き換えていることではなく、何が、いつ、どれだけ食べられ、何が残ったのかという実行結果を回収し、次の需要判断と店舗運営の前提に戻している点である。
Digital/AIの価値は、これを人間の観察だけでは追いきれない粒度と頻度で回し続けられることにある。実行結果として生じた例外が入力として回収され、仮説が更新され、次の判断ルールに反映される。この往復が単発で終わるのではなく、日常運用として回り続ける構造になっているかが、競争力を分ける。顧客・供給・生産は更新回路によって連鎖する。AIの役割は、個別判断の代替ではない。更新回路の運用コストを下げ、連鎖を切れずに回すことにある。供給と生産を一体のオペレーションとして更新できたとき、最適化は固定化へ陥らず、更新を生む母体として機能する。
本当の勝負は、更新回路をどこまで直接業務に埋め込めるかにある。間接業務の効率化に閉じたAIは最適化で終わるが、価値創出の中核に組み込めば競争の土俵は変わる。
混在を前提に、断絶を越える設計を実装する
必要なのは、すべての活動を「レベル3」にすることではない。企業内には必ずレベルが混在する。経営の仕事は、どの活動を基盤として守り、どの活動を接続点として磨き、どの活動を次の芽として伸ばすのかを決めることである。
第一に、見取り図を描くことだ。自社のオペレーションを構成する活動とそのレベルを可視化し、どこが基盤で、どこが接続点で、どこに次の成長の芽があるのかを把握する。全体像なしに、手を打つべき場所は定まらない。
第二に、断絶を特定することだ。問題はレベルの高低ではなく、どこで止まるかである。意思決定の詰まり、例外の滞留、KPIによる押し返しなど、更新が止まっているポイントを特定しなければ、本質的なボトルネックは残り続ける。
第三に、KPIと意思決定構造を変えることだ。更新が止まる原因は能力不足ではなく、評価と意思決定の仕組みにある。既存KPIを守ることが優先されると、標準外の試みは逸脱として排除される。基盤には効率を、接続点には全体最適を、探索には試行を許容するなど、活動ごとに評価軸を変える必要がある。
第四に、更新回路を実装することだ。ここで初めてDigital/AIが生きる。兆しを拾い、仮説を生成し、小さく試し、標準に反映する流れを日常運用として埋め込む。重要なのは、更新を特別な活動にしないことである。通常業務の中で回って初めて定着する。
見取り図を描き、断絶を特定し、評価と意思決定を変え、その上で回路を埋め込む。この一連を一体として進めなければ、最適化は元の形に戻る。Digital/AIは、どの断絶を越えるために、どの活動に使うのかを経営が決めたとき、はじめて設計装置として機能する。問うべきは「効率をどこまで上げたか」ではない。To-Beを設計して終わる企業なのか、更新し続ける回路をOSとして持つ企業なのか。これが分岐点である。
※本稿の問題意識および構成の検討は、企業変革支援チームの甕(もたい)氏の実務的知見に多面的に依拠している。
ローランド・ベルガー 企業変革支援チーム
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田村 誠一(シニアパートナー)
・変革参謀として、経営層と協働する企業変革支援に精通。
・官民ファンドで投融資責任を負い、投融資先企業の再生と変革を主導。
・経営実務を経験(元JVCケンウッド代表取締役副社長、元ニデック専務執行役員)。JVCケンウッドではCSO/CFOとして中長期戦略策定と実行、事業COOとして事業再構築と実行を主導。ニデックでは買収事業(欧米中)の成長を現地経営陣とともに主導。
ポッドキャスト配信
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ローランド・ベルガーについて
ローランド・ベルガーは、欧州発祥唯一のグローバル経営コンサルティングファームとして、世界を代表する企業と共に数々の変革を牽引してまいりました。
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1967年の創業以来、ミュンヘンに本社を置き、世界各国で培った知見と専門性を結集しながら、データとAIの活用、そしてサステナビリティを軸に、新たな成長機会の創出と価値創造に取り組んでいます。
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