地域医療構想で顧客構造が変わる ── ヘルスケア事業者に迫られる営業モデルの再設計

地域医療構想で顧客構造が変わる ── ヘルスケア事業者に迫られる営業モデルの再設計

2026年9月28日

急性期集約、機能転換、経営統合 ── その先に生まれる新たな需要をどう捉えるか

地域医療構想の進展により、急性期機能の集約、高齢者救急・地域急性期機能への転換、病院の統合や経営主体の変更、在宅・介護連携の強化が進む。機械的に試算された必要病床数では、急性期病床が2025年度の50万床から2040年に24万床へと半減する。これは医療機関だけの経営課題ではない。病院を顧客とするヘルスケア事業者にとっても、重点顧客、意思決定者、購買単位、求められる価値提案が変わることを意味する。

一部のグローバル・リーディング企業では、すでに地域医療再編を前提とした営業戦略の見直しが進められている。一方で、関係構築を基盤としてきた営業組織では、市場構造を読み、顧客の将来課題から提案を設計するケイパビリティが十分に組織化されていない場合がある。求められているのは、営業活動の強化ではなく、営業モデルそのものの再設計である。

本レポートの3つの示唆

取引実績と売上規模に基づく顧客分類は、再編後の市場を捉える指標として機能しなくなる。同じ医療機関名であっても、担う機能が変われば別のニーズを持つ顧客になる。

制度の確定を待つと、最適な参入の機会は失われる。どの医療機関がどの機能を担うかは2028年度末までの協議の中で決まり、設備投資計画を含む病院の運営構想もその過程で固まっていく。

従来の関係の厚さだけでは、医療機関の投資判断の場に入ることすらできなくなる。病院ごとの事情に応じて、どの構想区域で、どの機能を担うことになるのか、その見立てを持った顧客戦略が求められる。

地域医療構想は「病院の問題」ではない

地域医療構想を、病床削減や病院再編に関する医療政策としてのみ捉えると、民間ヘルスケア事業者にとっての経営インパクトを見誤る。

2026年に公表された策定ガイドラインの機械的試算では、急性期病床は2025年度の50.0万床から2040年に24.0万床へと半減し、回復期/包括期病床は21.1万床から41.6万床へと倍増する。あわせて創設された医療機関機能報告制度では、急性期拠点機能は人口20〜30万人につき1か所とされた。各都道府県は2028年度末までに構想を策定する。

この構造変化は、医療機関を顧客とする企業の営業活動に直接影響する。以下、4つの変化それぞれについて、病院に何が起き、それがヘルスケア企業にとって何を意味するかを整理する。

急性期拠点機能の集約 — 重点顧客が少数に集中する

構想区域内に複数存在する急性期病床を持つ病院のうち、1つが急性期拠点機能を担い、それ以外は別の機能へ移る。現状の急性期病院数と2040年の人口推計から機械的に試算すると、131の構想区域で326病院が過剰であり、相当数の集約が起こることが示唆される(図1)。実際の担い手の決定は、全身麻酔手術件数や救急搬送受入件数といった診療実績に加え、医療従事者の確保見込みや施設整備状況を踏まえた協議によって行われる。

この結果、ヘルスケア企業から見れば、高度医療機器や専門性の高い製品の販売先が少数に集中する。同時に、拠点となる病院とならない病院との間で、設備投資に回せる余力の差が開いていく。

求められるのは、売上規模と取引実績に基づく顧客分類の見直しである。将来どの機能を担うかを軸にアカウントを再分類し、限られた営業資源をどこに配分するかを判断し直す必要がある。

病院機能の転換 — 同一顧客でも求められるものが変わる

高齢者救急・地域急性期機能への転換が、多くの病院で発生する。誤嚥性肺炎やうっ血性心不全など、相対的に医療資源の必要度が低く、早期からのリハビリと在宅復帰を主眼とする患者が対象となる。ただし担う範囲は地域によって幅が出る。

この結果、ヘルスケア事業者から見れば、同じ病院名であっても、求められる仕様と価格帯が変わる。急性期向けの高機能モデルではなく、機能に見合った規模の機器と、初期投資を抑える導入方法が選ばれるようになる。

求められるのは、機能別に製品構成を組み替え、契約・価格モデルを再設計することである。従来と同じ製品ラインと同じ価格帯を提示し続けても、選定基準に合致しなくなる。

経営統合・広域連携 — 決裁が院内から外に出る

機能転換は、経営体制、人員配置、設備投資計画の見直しを同時に迫る。高齢者救急への転換によって一部施設が遊休化し過去の設備投資を回収できない、専攻医の派遣先が急性期拠点に限定されて人員が賄えない、といった事態に対して、病院の統合、地方独立行政法人化、地域医療連携推進法人化、民間病院による公立病院の指定管理化など、経営主体の変更が選択肢となる。

この結果、購買の決裁ラインが院内で完結しなくなる。法人本部が投資判断を握り、複数病院の共同購買として集約されることもある。地方独立行政法人化や指定管理化は、中期計画や本部の管理のもとで投資の優先順位が判断される体制への移行を意味しており、個別の医師の選好だけで採用が決まる余地は狭まっていく。医局との関係についても、症例が拠点に集約されれば派遣も拠点に偏り、同じ医局の影響力が及ぶ範囲に病院ごとの濃淡が生じる。

求められるのは、意思決定者マップの描き直しと、そこから導かれる接点の再構築である。ただし、どこに接点を持つべきかは一律には決まらない。問われるのは従来の関係性の深さではなく、病院ごとの事情に応じて張るべき先を見極め、そこに実際に接点を作れるかどうかである。

在宅・介護連携の強化 — 価値判断の単位が広がる

在院日数が短縮する一方で診療所は減少しており、医療と介護を行き来する患者を地域全体で支える仕組みが必要になる。市町村を中心とした役割分担の明確化や、ICTを活用した診療情報の共有が進む。

この結果、製品やサービスの価値は、一病院の中で完結するかどうかではなく、地域の連携全体にどう寄与するかで判断されるようになる。

求められるのは、施設をまたぐ提案と、連携先を含めた商流の設計である。

構想の確定を待っていては手遅れになる

どの医療機関がどの機能を担うかは、2028年度末までの協議の中で固まっていく。設備投資計画を含む病院の運営設計も、この協議と並行して決まっていく。この流動的な状況の中で、民間企業としてあるべき病院運営にどのような価値貢献ができるかを提案し、病院変革期における自社の立場を新たに確立することが重要である。

いま行うべきは、地域ごとの再編シナリオを想定し、自社の顧客基盤と製品ポートフォリオへの影響を検証し、優先順位を決めて働きかけていくことである。実際に、都道府県ごとに急性期機能の再編と人口減による構想区域の見直しの圧力のバランスがそれぞれに異なっており(図2)、それぞれのシナリオを念頭に自社の戦略を策定すべきである。

変化は、事業機会でもある

一方で、この構造変化は新たな需要も生む。急性期拠点病院では、圏域内で患者を奪い合う状況がなくなることで収益性の改善が見込まれ、若手・中堅医師を惹きつけるために先端技術を導入し続けるインセンティブが働く。高齢者救急・地域急性期機能を担う病院では、その機能に見合った規模の機器と、初期投資を抑える売り方が求められる。経営統合を機に共同購買が動き出す地域、機能の異なる病院間の患者搬送を効率化するツール、人員不足を前提とした省人化、そして在宅・介護との連携など、変化の一つひとつに、対応する事業機会が存在する。

ただし、いずれの機会をとりにいくにせよ、起点は同じである。自社の顧客が、どの構想区域で、どの機能を担うことになるのか。その見立てなしには、守るべき顧客も、新たに取りにいく需要も定まらない。

*本稿の問題意識および構成の検討は、北脇優子氏の実務的知見に多面的に依拠している。

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