東南アジアでは、中国勢のEVによる進出が加速している。「中国」という国自体の存在感は、東南アジア消費者の中で確実に高まった。しかし、筆者はEVとは別に、中国がもたらす新たな東南アジア市場の構造変化についてを提起したい。それは、中国FMCG(Faster Moving Consumer Goods:日用消費財)によるものである。
東南アジア ウェルネス市場
健康食品・サプリ・フィットネス・美容・宗教・フードテックを包含するエコシステム
コロナ禍を経て、東南アジアの生活者の中では「健康」という言葉がかつてないほど身近になった。高齢化が進むタイやシンガポールのみならず、若年層が多いフィリピンやインドネシアでも、「自分の健康は自分で守る」という意識が生活者の間に広がっている。医療体制への信頼が揺らいだ経験は、人々の意識を“治療”から“予防”へと向かわせ、ウェルネス市場拡大の大きな転換点となった。
いまや同市場は日本円換算で数兆円規模に達し、年率5~10%で成長を続けている。しかしその実態は、「健康食品→サプリメント→フィットネス」といった単線的な進化では語り尽くせない。美容志向が市場を牽引するタイ、フィットネスアプリが若者文化となったフィリピン、宗教的価値観を軸に健康食品が進化するインドネシアやマレーシア──各国はそれぞれ異なる文化的文脈を起点に、独自のウェルネス消費を形成している。
さらに近年は、プラントベース食品やパーソナライズド・ニュウートリション、AIを活用した健康アプリなど、フードテックやデジタルプラットフォームが市場拡大の新たな推進力となっている。GrabやGojekといった生活アプリを通じて健康食品を直接購入する仕組みも浸透し、ウェルネスは「商品」から「日常インフラ」へと進化しつつある。
こうした多様な要素が交錯する東南アジアのウェルネス市場において、日本企業が成功する鍵は、単発的な製品ヒットではなく、運動・美容・食・医療・保険を有機的に結びつけたウェルネスエコシステムの構築にある。すなわち、生活者のあらゆる接点を通じて継続的な関与を生み出し、「健康を売る」から「健康と共に生きる時間を創る」へと発想を転換できるかが問われている。
「ウェルネスはもはや単発的なヒット商品がつくるビジネスではない。美容やフィットネス、宗教・文化やテクノロジーを横断しながら、あらゆる生活者接点を包含するエコシステムへと進化しなければならない」
下村 健一 ローランド・ベルガー プリンシパル
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