機能別組織は、なぜ限界へ向かうのか

機能別組織は、なぜ限界へ向かうのか

2026年11月2日

「分解する経営」から、「合理性を設計する経営」へ

多くの企業で、サプライチェーン改革、顧客接点改革、DX、グループ経営改革など、分けて管理してきた活動をつなぎ直す動きが広がっている。しかし、統合や横断組織を進めても、新たな分断が生まれ続けるのはなぜだろうか。

その理由は、組織構造ではなく、企業を動かす合理性が従来のままだからである。本当に見直すべきなのは組織図ではなく、何を価値とし、誰が責任を負い、何が評価され、どの事実を経営判断の基準とするかという合理性の設計である。

Key Insights

機能別組織の限界は専門化そのものにあるのではない。分解された活動を価値の単位へ再び結び付ける合理性が設計されていないことにある。

統合や横断組織は分断への対症療法にはなり得るが、それ自体が解決策ではない。価値、責任、収益、評価、事実の視線がそろう仕組みを設計して初めて組織は変わる。

経営者の役割は新しい戦略や組織を示すことだけではない。各機能が合理的に行動するほど顧客価値が実現される状態をつくり出すことである。

近年、企業の中では、従来分けて管理してきた活動をつなぎ直す動きが同時に進んでいる。サプライチェーンでは調達、生産、在庫、物流、販売を一体として動かし、顧客接点ではマーケティング、営業、導入支援、アフターサービスを一連の体験として捉え直そうとしている。ITと業務、本社と子会社、事業部門と共通機能の境界も見直され、企業の外では取引先や専門企業との連携が広がっている。

これらは別々の改革として扱われてきた。サプライチェーン改革はオペレーション、顧客接点の統合は営業やマーケティング、ITと業務の一体化はデジタル変革、グループ経営はガバナンスの問題として語られる。対象は異なるが、分けて管理してきた活動を一体で動かそうとしている点は共通している。

活動をつなぎ直す改革がこれほど広がっているのは、単に部門間の連携が足りないからなのだろうか。それとも、企業活動を理解し管理するために用いてきた分け方そのものが、価値の生まれ方と合わなくなっているのだろうか。

機能は、経営をサイエンスにした

企業は、活動を機能ごとに分解することで成長してきた。営業、開発、調達、生産、物流、IT、人事といった区分を設け、それぞれに専門性と責任を持たせる分業構造は、規模の拡大と効率の向上を両立させる上で極めて合理的だった。

企業が成長し、扱う製品や顧客が増えるほど、全体を管理可能な形へ分解する仕組みが必要になる。役割を明確に区切ることで、複雑な活動を理解し、責任を割り当て、成果を比較し、改善を繰り返せるようになった。経験や勘だけに依存していた経営は、測定し再現できる対象へ変わった。

機能別組織は単なる組織形態ではない。活動を要素へ分解し、専門化、標準化、重要業績評価指標による管理、生産性向上を可能にすることで、経営をサイエンスとして扱えるようにした仕組みである。企業はこの分解原理によって、巨大化しながらも統制可能な存在になった。

しかし、分解の成功によって、管理のために設けた抽象概念だったはずの機能が、企業活動そのものの実体として扱われるようになった。機能別組織が失敗だったのでも、機能が不要になったのでもない。企業を強くした管理上の抽象だけでは、現実の価値創出を十分に捉えられなくなったのである。

統合とは、企業が自ら生んだ分断を修復する作業である

機能という分解単位と価値が成立する単位のずれは、別々に管理される活動を接続する「統合」の要求として現れる。営業とマーケティング、調達と生産、ITと業務のように、社内では異なる責任の下にある活動を、価値提供の場面では一つの流れとして動かさなければならない。

サプライチェーン改革、顧客接点改革、ITと業務の一体化、グループ経営の強化は、扱う対象こそ異なるが、同じ構造を持つ。いずれも、企業が別々の単位として管理してきた活動を、顧客や事業にとって意味のあるまとまりへ接続し直す取り組みである。

統合が必要になるのは、関係者の協力意識や調整能力が不足しているからではない。企業内部では活動ごとに目標、責任、資源が分けられる一方、顧客が受け取る価値はその区分を越えて成立する。統合は改革の目的ではなく、企業が管理のために分けた活動を、価値提供の場面で接続し直す後処理なのである。

組織再設計は、正しい分解線を探している

機能別組織の限界に対して、多くの企業は顧客別、プロダクト別、事業別の組織へ切り替え、価値に近い単位へ責任と資源を集めようとしてきた。新しい分け方と重視する価値が一致している間は、意思決定と実行のまとまりが改善するため、組織再設計には明確な効果がある。

一方、どの組織形態も、企業活動を固定的な単位へ切り分け、その単位に人、予算、責任を割り当てる点では同じである。組織再設計の多くは分解をやめるのではなく、分解線の引き直しである。

しかし、価値の成立条件は、固定された組織単位ほど安定していない。顧客の課題、製品の役割、必要な能力、競争の範囲が変われば、昨日まで有効だった境界と責任配置も価値の流れに合わなくなる。横断チームやマトリクス組織も、固定された組織単位を前提とする限り、同じ限界を抱える。

問題は機能別、顧客別、プロダクト別のどれが優れているかではない。変化する価値に対して、恒久的に正しい分解線が存在すると考えることにある。組織の境界を引き直すだけでは、別の場所に新たな分断が生まれる。問うべきは組織図の形ではなく、異なる機能がどの合理性に従って動くかである。

顧客が対価を払う価値が、合理性の向きを決める

「合理性の設計」の出発点は、顧客が何に対して対価を払うのかを具体的に定めることである。「ソリューション」や「顧客体験」という言葉だけでは、何を一体で扱い、どこまで責任を負うべきかは決まらない。顧客が買う成果を明確にして初めて、企業内部の判断と行動をどこへ向けるべきかが定まる。

欧州の航空機エンジンメーカーは、顧客が買う価値を、エンジンという製品から飛行可能時間へと広げた。航空会社にとって重要なのは、エンジンの所有や個々の整備作業ではなく、航空機を予定どおり飛ばし続けられることである。飛行時間に応じて対価を得る契約では、エンジンが稼働しなければメーカー側も十分な収益を得られず、メーカーは予防保全、状態監視、修理範囲、部品供給、オーバーホールを一体で管理する。

顧客価値を飛行可能時間として定義すると、耐久性や保守性は設計段階の判断となり、運航データ、保守計画、修理、部品配置が同じ成果へ結び付く。これは課金方法の変更にとどまらない。設計、製造、整備、データ分析の各機能にとって、飛行可能時間を高めることが合理的な行動になるよう、責任と収益の関係を変えたのである。

欧州のタイヤメーカーも、タイヤという製品から、輸送事業者の走行を支える成果へ価値の単位を広げた。同社は包括的なタイヤ管理サービスを立ち上げ、製品販売から走行を支える事業への転換に取り組んだ。導入初期には、事業の拡大と採算の確立に時間を要し、顧客成果型事業へ移る企業が向き合う構造的な課題が顕在化した。

タイヤを長く使えるサービスは顧客に価値をもたらす一方、新品販売を重視する営業評価とは一致しない場合がある。点検、交換、在庫、再生、緊急対応のコストも複数の機能や地域へ分散するため、製品原価と販売本数を中心とした管理だけでは、顧客別ライフサイクル採算を捉えにくい。現場の抵抗が問題なのではない。新しい価値と、既存部門にとって合理的な行動が一致しないのである。

サブスクリプションやソリューションビジネスという外形だけでは、新しい価値が事業として成立する条件は説明できない。顧客への約束を変えるだけではなく、その約束を実現する行動が、企業の中でも合理的になるよう設計する必要がある。

企業を動かすのは、組織図ではなく合理性である

企業の人々は、必ずしも変革に反対しているわけではない。営業は売上を求め、開発は性能を求め、生産は効率を求め、財務は採算を求める。それぞれが与えられた責任、収益、評価、事実に照らして合理的に行動した結果、新しい顧客価値が実現しないことがある。問題は意識ではなく、合理性の設計にある。

合理性を決める第一の要素は価値である。企業が何を成果と見なすかによって、判断の起点が変わる。製品、サービス、デジタルという社内分類ではなく、稼働時間、走行距離、生産量、歩留まり、エネルギー効率、総保有コストといった、顧客が対価を払う成果を一つの単位として定めなければならない。

第二は責任、第三は収益である。誰が結果を引き受けるかは、誰がトレードオフを決められるかを左右する。また、何によって企業が収益を得るかは、どの行動が経済的に合理的かを決める。顧客成果を掲げながら、製品販売、交換部品、修理作業を個別に最大化する収益構造が残れば、各機能の行動は同じ成果へ向かわない。

第四は評価、第五は事実である。何が評価され、どこへ人と予算が配分されるかは、現場の優先順位を決める。また、経営が何を事実として見るかは、どの活動を続け、どの投資を止めるかを決める。顧客別の契約収益、使用状態、故障、保守、部品、緊急対応をつないだライフサイクル採算が見えなければ、新しい価値が利益を生んでいるかを判断できない。

複数の事業を持つ製造業では、設備データやソフトウェアを全社で活用するため、事業横断のデジタル組織や共通基盤を整備する動きが広がっている。共通のデータ基盤、開発環境、分析ツールは、重複投資を減らし、専門人材や知見を事業間で再利用する上で有効である。一方、基盤を整えても、「どの顧客課題に使うのか」「誰が導入費用を負担するのか」「成果を何で測るのか」「運用後の責任を誰が持つのか」という問いは残る。

共通化すべき能力と、顧客成果ごとに設計すべき合理性は異なる。再利用できる能力は共通基盤として持てばよい。しかし、成果が違えば、必要なデータ、現場業務、意思決定、責任主体も変わる。すべてを共通化するのでも、事業ごとに個別化するのでもなく、顧客価値ごとに必要な合理性を設計しなければならない。

経営者の仕事は、合理性を設計することである

合理性の設計とは、人を説得して向かう先をそろえることではない。顧客が買う価値を一つの単位として定義し、責任、収益、評価、事実をその価値へそろえることである。各機能が自らの役割を合理的に果たした結果として、顧客価値が実現する状態をつくる。

最初に、顧客が対価を払う成果を測定可能な単位として定義する。「ソリューション」や「顧客体験」ではなく、稼働時間、生産量、歩留まり、エネルギー効率、総保有コスト、運転安定性、作業時間削減など、企業が実現し、顧客が確認できる成果へ落とし込む。

次に、その価値全体の責任主体を置き、企業収益を顧客価値へ接続する。責任主体は調整役ではなく、成果が実現しなかった結果を引き受け、性能とコスト、標準化と個別対応、短期収益と将来価値のトレードオフを決める権限を持たなければならない。収益モデルでは、企業が制御できる成果の範囲と顧客側が担う条件を分け、成果とリスクの境界を明確にする。

さらに、評価と資源配分を変える。横断組織に全体責任を与えながら、必要な予算と人材を既存部門へ依頼し続ける構造では、部門目標と衝突した時点で実行が止まる。新しい価値を実現する行動が、部門と個人にとっても合理的になるよう、評価、予算、人事を設計し直す必要がある。

最後に、経営が見る事実を変える。製品、保守、ソフトウェアの売上を別々に見るだけでなく、顧客別・契約別に、使用状態、故障、保守、部品、緊急対応をつなぎ、価値の実現に要した全コストと収益を把握する。データを統合するだけではなく、その事実によって投資、撤退、資源配分を決める。

経営者は自社へ五つの問いを向ける必要がある。顧客が対価を払う成果は定義されているか。全体責任者はトレードオフを決める権限を持っているか。顧客価値の実現と企業収益は接続しているか。人、予算、評価は新しい価値へ動く仕組みになっているか。顧客別・契約別のライフサイクル採算を見られるか。

新しい価値を掲げたとき、既存部門が従来どおり合理的に行動しても、その価値が実現するか。実現しないなら、組織を変えても合理性は変わっていない。

経営は、合理性を設計して初めて完成する

機能別組織の限界は、機能が不要になったことを意味しない。機能は専門性を蓄積し、責任を明確にし、複雑な企業活動を安定して運営するために、これからも必要であり続ける。

企業には、分解する力と、異なる機能の合理性を一つの価値へ向ける力の両方が必要である。分解する力は活動を専門化し、測定し、標準化し、再現可能にする。合理性を設計する力は、各機能の専門性を失わせることなく、その判断と行動を顧客が買う価値へ結び付ける。

サイエンスとアートは対立しない。サイエンスは要素を理解し、測定し、磨く。アートは、何を一つの価値として成立させるかを定め、責任、収益、評価、事実の関係に意味を与える。合理性の設計とは、直感に委ねることではなく、企業の中で何が合理的な行動になるかをつくることである。

経営とは、価値を語ることではない。各機能が合理的に動くほど、その価値が実現するように、企業の合理性を設計することである。

ローランド・ベルガー 企業変革支援チーム

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