管理された変革は、なぜ失敗するのか
By 田村 誠一
成果責任の「空白」を埋めるSROという考え方
企業が変革に失敗するのは、戦略がないからでも、課題が見えていないからでもない。多くの企業ではAI活用、DX、人材改革、事業改革が相互に絡み合い、変革は一つの部門や機能だけでは解決できないテーマになっている。それにもかかわらず、変革は依然として部門別・機能別に進められている。
その結果、誰もが関係者でありながら、誰も最後まで成果に責任を持たない状態が生まれる。本稿は、この「成果責任の空白」こそが変革を止める真因であると捉える。そして、その空白を埋める存在として、成果が実現するまで意思決定と実行を前進させ続けるSRO(Smart Results Office)という考え方を提示する。
営業改革、人材改革、DXなどを個別に進めても成果に届かなくなっている。変革に必要なのは個別課題の解決ではなく、複数の課題を横断しながら成果へ結び付けることである。
管理能力の向上は変革の成功確率を高めるが、それだけでは成果は生まれない。企業には進捗を管理する機能に加え、成果が出るまで意思決定と実行を前進させ続ける機能が必要になる。
成果責任とは結果への責任ではない。成果が実現するまで仮説を修正し、意思決定を問い直し、実行をやり切る責任である。説明責任で終わらず、実現するまで終われない責任なのである。
企業を取り巻く環境変化はかつてなく大きくなっている。AI活用、事業ポートフォリオ改革、新規事業創出、サプライチェーン再編、人材戦略の見直しなど、多くの企業が複数の変革テーマへ同時に向き合っている。変革の必要性そのものを否定する経営者はほとんどいない。経営会議では変革が繰り返し議論され、中期経営計画や各種戦略にも改革テーマが並ぶ。
それにもかかわらず、多くの企業では変革が思うような成果につながらない。改革プロジェクトは立ち上がる。推進組織も設置される。経営陣もその必要性を理解している。ところが数年後に振り返ると、期待した変化は実現していない。変革が失敗したというより、途中で勢いを失い、いつの間にか止まってしまったように見えるケースの方が多い。
戦略の質や実行力の不足が原因として語られることは少なくない。だが実際には、多くの企業は十分な分析を行い、自社の課題も把握している。戦略も存在する。改革テーマも定義されている。何を変えるべきかが分からないわけではない。それでも変革は前進しない。
戦略もある。課題も見えている。それでも成果にたどり着けない企業では、何が起きているのだろうか。
企業課題は複雑骨折している
かつて企業の改革は、個別課題ごとの改善で成果につながった。営業力を強化する。生産性を高める。コストを削減する。それぞれの課題に対して担当部門が改善活動を進め、その積み上げによって企業全体の競争力を高めることができた。
しかし現在、多くの企業が直面している課題は、そのような単純な構造ではなくなっている。営業改革を進めようとすると、人材配置や評価制度の問題に突き当たる。DX(Digital Transformation:デジタル変革)を進めようとすると、組織構造や権限設計の問題が表面化する。新規事業を立ち上げようとすると、既存事業との資源配分や意思決定プロセスの見直しが避けられない。個別の課題に見えるものの背後では、複数の課題が相互に絡み合っている。
その結果、多くの企業で奇妙な現象が起きる。営業部門は営業改革を進める。人事部門は人材改革を進める。DX推進部門はシステム導入を進める。それぞれの部門は正しいことを行っている。しかし企業全体として期待した成果には結び付かない。部分最適の積み上げが、全体最適を生み出さなくなっている。
課題が増えたからではない。課題同士の相互依存性が高まったためである。一つの課題を解決しても別の課題が成果を阻害する。ある部門の改革が進んでも別の部門の制約がボトルネックになる。企業全体を変えようとすればするほど、機能別・部門別のアプローチでは前に進めなくなる。
企業課題は複雑化したのではない。複雑骨折したのである。個別課題を解決する力だけでは成果に届かない。複数の課題を横断しながら成果へ結び付ける力が求められている。
管理された変革は、なぜ止まるのか
企業は変革を前進させるために、多くの仕組みを整備してきた。中期経営計画は細分化され、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)は体系化され、進捗は可視化される。重要な変革テーマには推進組織が設置され、定期的なレビュー会議も開催される。経営は以前にも増して変革を管理できるようになった。
その中核を担ってきたのがPMO(Project Management Office)である。PMOは課題を整理し、進捗を可視化し、関係者を巻き込みながら変革を前進させる。変革の実現可能性を高める上で、その役割はますます重要になっている。複雑な改革テーマを進める現在の企業にとって、PMOは不可欠な実行基盤である。
しかし現実には、PMOが存在し、管理の仕組みも整備されているにもかかわらず、期待した成果にたどり着かない企業が少なくない。KPIは把握されている。課題も整理されている。リスクも共有されている。進捗会議も定期的に行われている。それでも変革は思うように前進しない。
不思議なのは、多くの場合、何が問題なのか分かっていることである。進捗が遅れている理由も分かっている。ボトルネックも把握されている。追加施策の候補も議論されている。情報が不足しているわけではない。課題を発見できていないわけでもない。それでも変革は止まる。
管理能力の向上と成果創出は別問題である。管理は変革の成功確率を高めるが、管理そのものが成果を生み出すわけではない。変革が複雑になるほど管理の対象は増え、会議も報告も指標も増えていく。一方で、成果へ結び付く責任の所在は見えにくくなっていく。
管理された変革が止まる理由は、管理が不足しているからではない。管理が高度化するほど、別の問題が浮かび上がる。誰が最後まで成果に責任を持つのかという問題である。
成果責任の「空白」
変革プロジェクトが停滞すると、多くの企業では原因分析が行われる。進捗が遅れている理由を整理し、ボトルネックを特定し、改善策を議論する。課題管理表は更新され、次回会議までのアクションも設定される。一連のプロセスは合理的であり、管理の観点から見れば適切に運営されている。
それにもかかわらず、状況は大きく変わらないことがある。課題は見えている。原因も分かっている。改善策も整理されている。しかし成果には結び付かない。変革が前進しているように見えても、実際には同じ場所を回り続けているケースは少なくない。
多くの場合、企業は何が問題なのかを理解している。どのような対応策が必要なのかも認識している。それでも変革が止まるのは、成果へ結び付ける責任が組織の中で「空白」になりやすいからである。
複雑な変革テーマほど複数の部門や機能にまたがる。営業改革は人事制度に影響を受ける。DXは組織構造に左右される。事業ポートフォリオ改革はガバナンスや意思決定の問題と結び付く。その結果、誰もが関係者でありながら、誰も最後まで成果に責任を持たない状態が生まれる。
もちろん責任者が存在しないわけではない。経営者もいる。事業責任者もいる。プロジェクト責任者もいる。しかし、変革そのものを成果へ結び付ける責任は次第に分散し、曖昧になる。変革が横断課題になればなるほど、この傾向は強くなる。
企業は説明責任を組織化することには長けている。進捗を報告する仕組みもある。課題を共有する仕組みもある。リスクを管理する仕組みもある。しかし、どうすれば実現できるのかを問い続ける責任は組織の中に埋もれやすい。説明責任は存在しても、成果責任は「空白」になる。
変革が止まるのは、課題が見えていないからではない。成果に執着する主体が存在しないからである。
SROは成果責任の「空白」を埋める
成果責任の「空白」を埋めるために必要なのは、管理機能をさらに強化することではない。会議体を増やすことでも、新たなレポートを作ることでもない。求められているのは、成果が出るまで変革を前進させ続ける機能である。
変革が複雑になるほど、成果を生み出すためには複数の部門や機能を横断しなければならなくなる。その結果、誰もが関係者でありながら、誰も最後まで成果に責任を持たない状態が生まれる。管理機能で埋められるのは進捗管理の「空白」であり、成果責任の「空白」ではない。必要なのは、成果そのものに責任を持つ機能である。
その役割を担うのがSROである。SROは高機能なPMOではない。問題発見や問題解決を管理する組織でもない。成果責任を引き受ける機能である。変革の進捗を管理するのではなく、成果が出るまで変革を前進させ続けることに存在意義がある。企業変革の現場で、私たちがクライアント企業と共に担っている役割も、本質的にはこれと同じである。
企業に必要なのは、変革プロジェクトを管理する機能ではない。成果へ結び付くまで変革そのものを前進させる機能なのである。
SROはなぜ成果を出せるのか
SROの特徴は、成果責任を持つことだけではない。成果責任を成果へ結び付けるための行動原理を持つことである。成果責任を掲げることはできる。しかし、複雑な組織の中で成果を生み出し続けるためには、従来の組織運営とは異なる視点が必要になる。
多くの組織は、自らの担当領域の中で課題を捉える。営業部門は営業課題を、人事部門は人材課題を、DX推進部門はデジタル課題を解決しようとする。それ自体は合理的であり、組織運営において必要な考え方でもある。しかし、企業の成果は部門ごとに生まれるわけではない。営業成果は商品競争力にも左右される。DXの成果は組織構造にも依存する。人材改革の成果は事業戦略と切り離せない。成果は、複数の機能や部門が重なり合う場所で生まれる。
SROは課題ではなく成果から考える。営業改革だから営業を見るのではない。DXだからシステムを見るのでもない。まず成果を定義し、その成果を阻害している要因がどこにあるのかを考える。営業改革のボトルネックが人事制度にあるなら人事へ介入する。DXのボトルネックが意思決定構造にあるなら組織へ介入する。成果に必要であれば、介入対象は変わる。
成果を阻害する要因は数多く存在する。しかし、成果を止めている要因は限られている。SROは課題一覧を管理することを目的としない。成果を止めている制約を見極め、そこへ経営資源と意思決定を集中させる。成果を前進させるために、何を優先し、何を後回しにするのかを決め続ける。
成果責任を負う以上、成果を阻害している要因へ働きかけなければならない。論点を整理し、関係者を巻き込み、意思決定を促し、優先順位を見直す。成果につながらないのであれば、部門や機能の境界を越えて介入する。求められるのは権限ではなく、成果へ向けて組織を動かす力である。
SROは組織に忠実なのではない。機能に忠実なのでもない。計画に忠実なのでもない。成果に忠実なのである。だからこそ介入対象を変えることができる。だからこそボトルネックに集中できる。だからこそ複雑骨折した課題を横断しながら成果へたどり着くことができる。
成果責任とは、終われない責任である
成果責任という言葉は、多くの場合、結果に対する責任として理解される。しかし、変革において求められる成果責任はそれほど単純なものではない。目標数値を達成する責任でもなければ、あらかじめ決められたKPIを追い続ける責任でもない。成果責任が向き合うのは、成果そのものだからである。
多くの組織では、成果が出なかったときに原因を分析する。進捗を振り返り、課題を整理し、改善策を議論する。それ自体は重要な営みである。しかし、そこで終わるのであれば説明責任の範囲を出ない。なぜできなかったのかを説明することと、どうすれば実現できるのかを追い続けることは別の責任である。
期待した結果が得られなければ、仮説を見直す。施策を変える。意思決定を変える。場合によっては、変革テーマそのものの捉え方を変える。成果責任とは、成果が出ない状態を前提にしながら、成果へ結び付くまで問い直し続ける責任である。
問題を発見することも、問題を解決することも、それ自体が目的ではない。成果へ結び付かなければ意味がない。成果責任を負う者は、常に成果を起点に考え、成果を基準に判断する。その結果として問題発見や問題解決があるのであって、それ自体がゴールではない。
成果責任とは結果に対する責任ではない。成果が出るまで問題発見と問題解決を繰り返し、意思決定と実行を前進させ続ける責任である。終わったと宣言する権利を持つのではなく、成果が出るまで終われない責任なのである。
成果を出し続ける企業へ
多くの企業は変革の必要性を理解している。変革テーマも定義されている。戦略も存在する。それにもかかわらず変革が進まないのは、課題が見えていないからではない。成果へ結び付ける責任が組織の中で曖昧になりやすいからである。
企業課題が複雑化し、複雑骨折するほど、この傾向は強くなる。営業改革、人材改革、DX、事業ポートフォリオ改革は、それぞれを切り離して進めることができない。変革は部門横断的な課題となり、誰もが関係者でありながら、誰も最後まで成果に責任を持たない状態が生まれる。
その「空白」を埋めるために必要なのは、一つの変革プロジェクトを成功させることではない。成果から考え、意思決定し、実行し、学習し続ける企業へ変わることである。変革が特別な活動である限り、変革は繰り返し停滞する。成果責任が組織の中に根付いたとき、変革は特別な活動ではなく企業の日常になる。
SROの仕事は成果を出すことだけではない。成果を出し続ける企業へ変えることである。
ローランド・ベルガー 企業変革支援チーム
企業変革は、企業や組織が将来に対応できるよう導くことを目的とするものですが、それには変革を統括することに加え、組織、人材、およびステークホルダーとのコミュニケーションといった、企業変革に密接に関連した現場における豊富な専門性が求められます。ローランド・ベルガーの企業変革支援チームは、事業構造や財務構造の再構築、抜本的な収益改善、企業再生・変革を手掛ける業界横断型専門チームとして、クライアント企業の変革に向けた各種支援を行っています。
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ポッドキャスト配信
・ローランド・ベルガーは、ポッドキャストの音声によるビジネス番組「変革参謀 -当事者が語るリアル-」の配信を2025年6月に開始いたしました。経営コンサルタントながらも変革をリードしてきた『当事者』としての視点を持つ田村誠一、野本周作(変革アドバイザー [非常勤])の2人が「企業変革とは何か」「企業変革のリアルとは」について語り合うトーク番組です。
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ローランド・ベルガーについて
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1967年の創業以来、ミュンヘンに本社を置き、世界各国で培った知見と専門性を結集しながら、データとAIの活用、そしてサステナビリティを軸に、新たな成長機会の創出と価値創造に取り組んでいます。
"その決意、前へ"
経営に、正解はありません。
経営者は常に不確実性の中で意思決定を迫られています。
最後までやり切る覚悟と、現実から目を背けない当事者意識が不可欠です。
欧州発祥のローランド・ベルガーは、多様なステークホルダーを抱えるクライアント企業と共に変革を実現してまいりました。
世界中の知見と多様な専門性を結集し、共に考え、共に動き、共にやり抜く。
難しい決断を、確かな前進へ。覚悟を、成果へ。
その決意、前へ。
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