After years of risk mitigation and efficiency improvements, organizations must refocus on international growth. Roland Berger has a range of solutions to help.
By Denis Depoux, Andrew Yi, David Zhu, 小野塚 征志 and Chris Ong
グローバルサプライチェーンは限界点に達しています。数十年間、統合に向かい緊密に織り込まれた現在のサプライチェーンは、その隠れた弱点が表面化し、ほつれ始めています。貿易紛争、環境法、地政学的紛争は一時的に生じている混乱ではなく、サプライチェーンを再構築へと向かわせる構造的な動力です。今求められていることは、いかに優れた新たな多極秩序を構築するかであり、従来のグローバリゼーションモデルは修復するものではなくなりました。本稿では、世界の産業地図がどのように変化しているのか、より地域内で完結されるサプライチェーンは経営現場において何を意味するのか、そしてアジアが「世界の工場」から統合された「経済圏」へと変貌を遂げることで、どのようにパワーバランスが変化する可能性があるのかを考察しています。
近代史の大部分においては、産業移転がグローバリゼーションを進歩させてきました。そして、それが繰り返されるごとに国境を越えた統合が深まり、各地域に明確な役割を委ねてきました。そこでは、米国とヨーロッパがハイエンドな研究開発と設計を独占し、アジアは中低価格帯の製造能力を提供しました。この枠組みは、効率性と規模を可能にしたものでしたが、今や崩壊しはじめています。金融危機を発端に、COVID-19以降はより顕著に、効率性よりもレジリエンス(回復力)が追求されるようになり、優先事項であったシームレスなグローバルフローは、安全な地域ネットワークと置き換わっています。この過程で、3つの異なる重心が浮上しました。北米は製造業を国内に回帰させ、ヨーロッパは再工業化を目指し、アジアは世界の工場としての役割を超えて、域内でのバリューチェーンと産業エコシステムを構築しようとしています。これらの変化が相まって、現在、多極化したグローバルサプライチェーンの基盤が築かれつつあるのです。
北米や欧州が国内回帰と空洞化対策に注力しているのに対し、アジアは異なる道を歩んでいます。それは、地域内における統合、経済間の役割再定義、そして国境を越えたシナジーの深化です。では、各国は、地域が変革している中で、どのように自国を位置づけていくのでしょうか。以下では、それを見通す一助とすべく、アジア諸国の軌跡を踏まえながら優位性と課題を特定し、今後も様々な変化をもたらすであろうマクロ経済環境の変容への、各国の対応状況を検証しています。
中国は域内最大の経済大国であり、アジアの中心地として、依然としてこの地域の変化の多くを牽引しています。政策転換は、国内と海外の成長サイクルのバランスをとることを目指しています。
中国はアジアのサプライチェーンハブですが、その地位は急速に変化しています。かつてはその規模と中堅製造業に代表されましたが、中国は上流産業の再編を進め、化学、金属、その他の基礎産業といった長年過剰生産能力に悩まされてきたセクターの統合が進んでいます。政策的インセンティブと低炭素化の推進により、旧来の生産体制からより先進的で効率的な生産体制への移行を加速すると同時に、政府は国内成長と海外展開という相反する要求のバランスを取ろうとしています。つまり、家計消費を刺激しつつ輸出競争力を維持し、外国投資の流入を維持しながら海外技術への依存度を低減させることを意味しています。同時に、多国籍企業は、太陽光発電や新エネルギー車における競争力の高まりに惹かれ、中国への資源再配分を進めています。また、半導体などの先端分野に対する外国からの規制が厳しい現状を踏まえ、ボトルネック技術の自給自足は国家の優先課題です。この点について、労働集約型生産が東南アジアにシフトする中、不均一ではあるものの進展が見られます。中国の現状は移行期にあり、産業界はバリューチェーンの上流へ、自国のエコシステムは世界的な競争力獲得に向むかっています。
日本は先端技術と素材のリーダーであり、自動車などの主要分野の成長を牽引するとともに、戦略産業の活性化とリスク管理の強化に取り組んでいます。
日本は政策的な支援もあり、先端技術や素材、精密機器などのハイエンド製造業において世界をリードしています。自動車や産業機械は依然として世界の成長エンジンですが、半導体やバイオテクノロジーは更なる強化が求められる状況です。国際競争力維持のために、日本企業はグローバル・サウスへの進出とチャイナプラスワン戦略を推進しています。一方、政府は半導体などの戦略産業の活性化に投資を集中させ、デカップリングリスクを相殺するために幅広い貿易連携を推進しています。同時に、自然災害の頻発、サイバー攻撃の深刻化、地政学的な緊張などにより、企業はリスク管理の強化と、より強靭なサプライチェーンの構築を迫られています。
韓国は研究開発、設計、コア部品の分野ではリーダーであるものの、輸入依存、米国の輸出制裁、中国との競争激化による圧力の高まりに直面しています。
研究開発、設計、コア部品の分野で世界トップクラスを誇る韓国は、米中対立の激化を受け、重大な岐路に立たされています。米国との安全保障上の連携により、輸出規制の遵守は不可避となり、サムスンのテキサス州2nm工場をはじめ、米国工場への大規模投資が行われています。同時に、最大の貿易相手国であり、特にバッテリーや化学の原材料の主要供給国である中国への依存は、構造的な脆弱性を露呈させています。中国企業は、半導体、ディスプレイ、EV用バッテリーにおける韓国の市場シェアを急速に侵食していますが、米国の制裁措置と関税は輸出を阻害し、グローバル製造ネットワークを複雑化させています。こうした圧力を乗り切るために、韓国企業は生産拠点の多様化、代替原材料の確保、そしてより付加価値の高い分野への進出を図り、製造主導型からイノベーション主導型の競争力へと転換していく必要があります。
インドネシアは、豊富なニッケル埋蔵量を活かし、バッテリーと製造業の拠点となることが見込まれています。しかし、インフラの不足、ESGリスク、そして中国への過度の依存が依然として大きな障害となっています。
インドネシアは東南アジアの主要サプライチェーン拠点として台頭し、豊富な資源を産業力へと転換させています。世界のニッケル埋蔵量の42%を保有するインドネシアは、バッテリー大国へと変貌を遂げつつあり、その生産能力は2024年の10GWhから2030年までに140GWhに増加すると予測されています。製造業は既にGDPの約5分の1を占めており、自動車、EV用バッテリー、電子機器の成長に支えられています。また、ASEAN域内貿易は2024年に1,060億米ドルを超えると予想されています。しかしながら、インフラのボトルネック、人材不足、輸入半導体への依存、物流コストの高騰、そして炭素集約度やパーム油に関連するESG(環境・社会・ガバナンス)の障壁の深刻化など、依然として弱点が残っています。
ジャカルタはデジタル物流改革、経済特区(SEZ)、そして厳格な現地調達率規制で対応していますが、米国の関税引き上げと重要な原材料の中国への依存は依然として大きな障害となっています。今後は、資源に由来する強みを持続的な技術力とサプライチェーンのリーダーシップへと転換していく必要があります。
ベトナムは半導体、電子機器、電気自動車への外国直接投資が過去最高を記録している成長著しい製造拠点です。しかし、サプライチェーンにおける需給ギャップ、人材不足、そして米国とカナダへの依存といった問題に対処する必要があります。
ベトナムはアジアのサプライチェーンにおいて急速に重要な拠点になりつつあります。現在、製造業がGDPの約4分の1を占め、380億米ドルの外国投資(2024年実績)が半導体工場、電子機器の拡張、VinFastのEV事業へ実施されました。ベトナムは製造業の成長でASEANをリードしており、組立てだけでなく、バリューチェーン全体を提供すべく、2040年までに3つの半導体工場、300の設計事業者、20の梱包工場を持つことを目指しています。CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)、EVFTA(EU・ベトナム自由貿易協定)、RCEP(地域的な包括的経済連携)協定などの強力な貿易協定とコスト競争力のある組立て機能が相まって、ベトナムは主要なアパレル輸出国および新興EVと電子機器のハブとして台頭しています。弱点には、輸入綿と半導体材料への依存、仕上げ能力の限界、インフラの制約、高度なエンジニアリング人材の不足、内陸物流コストの上昇などがあげられます。また、輸出において米国(30%)と中国(17%)への依存度が高いため、関税変動の影響を受けやすく、成長を持続するには輸出先の多様化と継続的な投資が不可欠となっています。
タイは、国家の優遇措置と東部経済回廊(EEC)の支援を受け、EVと先進エレクトロニクスに注力しています。しかし、高い輸入依存度、物流のボトルネック、そして関税圧力が将来の競争力を脅かしています。
東南アジアの自動車産業の中心地であるタイは、8,480億バーツの優遇措置と440億米ドルの東部経済回廊を背景に、EVと先進エレクトロニクス分野への進出を進めています。その目標は、BYD、長城汽車、メルセデス・ベンツからの投資を取り込み、2040年までにバッテリー電気自動車(BEV)の生産台数を9万3,000台から250万台に増やすことです。自動車とエレクトロニクスはすでに同国の輸出の約40%を占めており、ゴム、石油化学、シリコン加工への旺盛な投資や、デジタル産業への外国直接投資の増加に支えられています。半導体やバッテリー素材の輸入依存、税関のボトルネック、非効率的な物流、関税の影響といったリスクは依然として残っています。米国からの関税引き上げは主要な輸出を脅かし、安価な中国製品の流入は国内企業を圧迫しています。競争力を維持するには、サプライヤーの多様化、デジタル化の加速、そしてバリューチェーンのさらなる上流への移行が必要となります。
マレーシアは半導体組立およびテスト(OSAT)において世界をリードしており、ウェーハファブや先端研究開発への新たな投資が進んでいます。成長促進政策と高い技術力のおかげで、米国と中国からの影響度合いを管理しやすくなっています。
マレーシアは半導体OSATのアウトソーシングで世界をリードしており、世界の約3分の1を占めています。ただし、同国の地域シェアは2018年の43%から2025年までに33%に低下すると予測されています。これまでパッケージングとテストに限られた専門性が主でしたが、現在は、110億米ドル以上をウェーハファブのアップグレードと高度な研究開発に投入しており、ペナンとジョホールは半導体とEV部品のハブとして台頭しています。エレクトロニクスへの外国投資は、堅調な石油化学とポリマーに支えられ、過去10年間で年平均成長率18%で成長しました。一方で、課題は残ります。賃金の上昇はコスト競争力を侵食し、主要工業地帯以外ではインフラが依然として不均一であり、高度なエンジニアリングにおける人材不足が事業拡大を抑制しています。中国製原材料への過度の依存と米国および中国へのエクスポージャー(米中合わせて輸出のほぼ半分を占める)は、リスクをさらに増幅させています。競争力を維持するには、より広範な上流領域での知見と、より複雑な技術に対応できる労働力が必要です。
シンガポールはアジアの高付加価値サプライチェーンの拠点として顕在しています。研究開発、デジタル化の推進、そしてグリーン物流は、コスト上昇とエネルギー輸入および中国への依存を相殺するために欠かせません。
シンガポールはASEANからの直接投資(FDI)で最大のシェアを占めています。世界トップクラスの物流、透明性の高い法制度、そして高度なスキルを持つ労働力は、地域統括や貿易金融における数々の拠点を惹きつけています。精密工学、半導体、石油化学、医療技術といった分野では、シンガポールはアジアの高付加価値サプライチェーンの中核を担う一方で、コスト上昇と輸入エネルギーや原材料への過度な依存が構造的なリスクを露呈しています。域内他国の競合企業は、より安価な土地と労働力を提供できるため、シンガポールのコスト優位性は低下しています。また、機械輸出先の約3分の1が中国と香港であるため、収益は地政学的なショックの影響を受けやすくなっています。シンガポールの解決策は、ゼロエミッション輸送や企業の研究開発といった先進的な取り組みを通じて、高度な技術とグリーン物流をリードし、アジアのイノベーションハブとしての役割を強化することです。
フィリピンは、世界のアウトソーシングおよび半導体組立およびテスト(OSAT)の10%を占め、世界第2位のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)労働力を擁しています。高い電力コストと中国および米国への依存により、事業の多様化と付加価値成長が不可欠です。
フィリピンは世界の半導体組立およびテスト(OSAT)の約10%を担い、世界第2位のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)労働力を擁しており、財貨の輸出とサービス収益の両方から構成されています。エレクトロニクスが主流で、半導体、ハードディスクドライブ(HDD)、コンシューマーデバイスの労働集約型組立が輸出額の半分以上を占めています。サービス面では、BPOセクターはGDPの約9%を占め、130万人以上を雇用しています。資源は地熱とニッケルを有しており、クリーンエネルギーとEVバッテリーの分野で強みとなりますが、高い電力コストと中国と米国への輸出依存度の高さが、多様化の制約となっています。現在の政策は、これらの制約を緩和するために、再生可能エネルギー、物流の高度化、高付加価値サービスに重点を置いており、これにより、競争力のあるサプライチェーン拠点としてのフィリピンの地位を強化しています。
アジアの経済圏は今、不可逆的な再編を迎えています。これまでの構図は、断片的なバリューチェーンを担うのみでしたが、これからはバリューチェーン全体のリーダーシップを発揮していくでしょう。同時に、域内経済圏は、均質的な競争から協調的な共生へと向かっています。
その変革の基盤を形成するのは、同地域が持つ優位性と課題の差し引きです。それぞれの国がそれぞれの優位性を有しています。中国の広大な産業インフラと自給自足への取り組み、台湾の半導体における技術的優位性、日本の先端素材と精密機器、韓国のバッテリーとコア部品、そして東南アジアの豊富な資源、急成長するEV集積地、そしてコスト競争力のある製造業です。一方で、鉄鋼、化学、中堅エレクトロニクスにおける構造的な過剰生産能力、米中貿易摩擦や関税ショックへの過剰なエクスポージャーなどの見過ごせない課題も存在しています。
アジアの経済圏にとって、いかにその規模、技術、そして資源の統合を深め、強靭なネットワークへと転換していくかが重要になります。そうすることで、同地域地域は脱グローバル化に適応するだけでなく、次世代のグローバルバリューチェーンの主役として台頭していくでしょう。
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